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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)8605号 判決

主文

一  被告らは、原告高澤興平治に対し、各自金四一一万三〇一三円及びこれに対する昭和五九年二月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告高澤ウタに対し、各自金四一一万三〇一三円及びこれに対する昭和五九年二月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分しその一を被告らの連帯負担とし、その余は原告らの負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各原告に対し、各自金二五〇〇万円及びこれらに対する昭和五九年二月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、訴外高澤伸介(以下「伸介」という)の親である。

2  事故の発生

伸介は、昭和五九年二月二六日の日没後である午後四時五〇分ころ、降雪の中を、スキーで滑降して、蔵王スキー場の高層部にある国体コースからサンライズゲレンデを経て山形市蔵王温泉字川原九〇四番地の一所在の通称蔵王中森ゲレンデ(以下「中森ゲレンデ」という)に入り、同ゲレンデ終着点近くにある宿泊先の民宿「雪ぐら」に帰るため滑降して来たところ、同ゲレンデとその下方北側に位置する紅花駐車場として利用されている土地との境付近にあった雪の段差(以下「東側段差」という)の東南角付近の高低差約一・五ないし二メートルのある部分から転落し、前記駐車場内に転倒し、脳挫傷の傷害を受け、同年三月六日、山形市立済生館病院において右傷害により死亡した。

3  被告蔵王中央ロープウエイ株式会社(以下「被告ロープウエイ」という)の責任

(一) 管理者

被告ロープウエイは、本件当時、中森ゲレンデの下方の土地の一部を所有し、残部を賃借し、蔵王中央ロープウエイと蔵王中森リフトを設置し、中森ゲレンデを造成するなど、スキーコースを作り、少なくとも中森ゲレンデ下方部分を占有管理していた者である。

(二) ゲレンデの瑕疵及び管理義務違反

中森ゲレンデは、別紙図面(一)及び(二)のとおり、リフトに沿ってほぼ一直線に蔵王中央ロープウエイ山麓駅まで下るスキーコースで、その主に下山路として利用され、同スキーコースは、コースの上方から見ると、下方の右半分に紅花駐車場が存在するため、コースの裾部の広がった緩斜面の幅員がコースの終わり近くで、左側半分にも足りない狭さとなって、左に屈曲し、その屈曲部付近からロープウエイ発着場東側前の平坦地(以下「中森ゲレンデ下空地」という)まで中程度の急斜面に変化している。しかも、コースの終わりの少し手前付近の裾には、北側方向(コースの上方から見て右手)に開けた平坦地があり、その一部がゲレンデになっているものの、その平坦地部分の下方が削り取られて紅花駐車場となっている。そして、右のような平坦なゲレンデ裾部分の下方とこれに接する駐車場との間の境には、地表面で三・七五メートル前後の段差があり、かつ、冬季には、駐車場の管理者が被告ロープウエイの了解の下に、右境界付近のゲレンデと駐車場との間の空地上に、除雪や掻き上げた雪の積み上げにより崖状の東側段差を生じさせていた。中森ゲレンデのこのような用途、構造ないし駐車場との位置関係及び雪の段差状況のため、スキーヤーは、中森ゲレンデを下山のため滑降してきた場合、気象条件及び駐車状況次第では、紅花駐車場とゲレンデ終わり付近との判別が付かず、同駐車場がゲレンデの延長でありそのまま真っ直すぐ滑降するのが自然のように錯覚し、同駐車場の南側ないし東南側へ進入し、東側段差から同駐車場内に転落する危険があった。従って、中森ゲレンデを占有管理する被告ロープウエイには、コースの終わりの少し手前付近のゲレンデ裾と紅花駐車場との境付近に、雪の崖へのスキーヤーの進入を完全にふさぐような防護ネットを張ったり、危険表示標識、コース標識などを設置するなどして、スキーヤーが過ってスキーコースから外れて紅花駐車場に進入することを防ぐための防護設備を整える必要があった。それにもかかわらず、同被告は、東側段差の上方北側部分(コース上方からみて右側部分)に竹竿とネットで不十分な防護柵を設けていただけで、紅花駐車場の東南角部分上方(コース上方からみてやや左側部分)及びその手前付近には滑降してくるスキーヤーの進入を防止するような設備を何ら設けていなかった。右の設備の欠如は、被告ロープウエイによる中森ゲレンデの設備保存上の瑕疵にあたると同時に、中森ゲレンデの安全管理義務違反にあたる。

従って、被告ロープウエイは、民法七一七条一項または七〇九条の責任がある。

4  被告後藤組の責任

(一) 管理者

被告紅花駐車場こと後藤組温泉開発有限会社(以下「被告後藤組」という)は、本件事故当時、中森ゲレンデなどに出入りするスキーヤーを対象とする前記紅花駐車場の敷地を所有して、同駐車場を経営し、かつ、冬季には、同駐車場内の雪を除雪し、掻きあげるなどして駐車場内の東側及び南側に中森ゲレンデとの境(すなわち、原地形上の境界ではなく、冬季の積雪状態における事実上の境)となる崖状の雪の段差ないし斜面を作出し、紅花駐車場とその東側段差及び南側段差を占有管理していた者である。

(二) 駐車場の瑕疵及び管理義務違反

紅花駐車場は、請求原因3(二)において述べたとおり、中森ゲレンデの用途、構造ないし紅花駐車場との位置関係及び雪の段差状況からすれば、同ゲレンデを下山のため滑降してくるスキーヤーには、気象条件及び駐車状況次第では、同駐車場とゲレンデの終わり付近との判別が付かず、同駐車場がゲレンデの延長でありそのまま真っすぐ滑降するのが自然のように錯覚し、紅花駐車場の東側ないし東南角へ進入し、崖状の雪の東側段差から同駐車場内に転落する可能性があった。被告後藤組は、スキーヤーがゲレンデから駐車場の東側ないし東南角付近に進入することを防止する設備を何ら設けておらず、しかも、本件事故当時、ブルドーザーを使用して紅花駐車場内を除雪し、その雪を右ゲレンデとの境界付近の空地に掻きあげて押し付け、駐車場側を垂直に近い形に削って崖状の雪の段差とし、その結果、同駐車場東南角付近に、ゲレンデから駐車場に高低差一・五ないし二メートルの雪の崖を作り出したため、中森ゲレンデのスキーコースを外れて同駐車場に進入してきたスキーヤーに大きな傷害を負わす危険を生じさせた。従って、被告後藤組は、ゲレンデから駐車場方向へ滑降してくるスキーヤーが傷害を負わないようにするため、駐車場東側ないし東南角にできる雪の段差が緩斜面になるように除雪作業を実施するか、あるいは右段差付近に雪の崖ないし急斜面が作り出したときはその上方前面全体にわたり進入を防止する防護ネットを設けるなどしてスキーヤーが駐車場内に転落しないようにする管理義務があったにもかかわらず、これを怠ったものである。

従って、被告後藤組は、民法七一七条一項または七〇九条の責任がある。

5  損害

本件事故のために伸介及び原告らが受けた損害は、次のとおりである。

(一) 逸失給与収入 合計金四四五六万六〇八四円

伸介(昭和三七年八月二九日生まれ)は、昭和五五年度国家公務員試験(初級)に合格して、特許庁に採用され、同五九年一月一日に行政職(1)八等級七号俸(同六〇年法律第九七号改正給与法の行政職(1)、第一級七号俸に相当)に昇給し、本件事故当時は月額一〇万〇二〇〇円の本俸とその他の給与(調整、期末、勤勉、扶養等の各手当。以下「給与等」という。)を得ていた。国家公務員の場合、給与の額は、一般職の職員の給与に関する法律(以下「給与法」という。)により、一定の基準でその昇給、昇格等が管理されているところ、従前の実績等によれば、初級採用者の場合、昇進に差の生じるのは、課長補佐段階(級別標準職務表の七級段階)で、年齢的には四二ないし四七歳(平均四四・六歳)であるので、伸介の昇給、昇格についても、控え目にみても年齢四五歳で職務等級の六級一〇号の水準に達することが推測され、右に達するまでの間及びそれ以降の同人の昇給、昇格の順序ないし期間は、最低限別表(一)の昇進モデルのとおりとなることが予想される。調整手当は、一律前記給与額の一〇パーセントであり、期末、勤勉の各手当は、合計すると給与等の額の概算四・九倍程度である。生活費控除割合は、三〇歳までに結婚するとして、二九歳までは五〇パーセント、三〇歳以降は三〇パーセントとするのが合理的であり、扶養手当も三〇歳以降の五年間は配偶者一人で金一万四〇〇〇円、三五歳以降は子供二人が生まれたとして、金二万三〇〇〇円とするのが、合理的である。従って、伸介の逸失給与利益は、別表(一)でその内訳を整理したとおりであり、ライプニッツ方式により算出すると、合計金四四五六万六〇八四円となる。

(二) 逸失退職手当 金三二二万一八八八円

伸介は、満六〇歳で定年退職するまで四二年間特許庁に勤務し、退職時の俸給月額として別表(二)のとおり少なくとも金三四万二九〇〇円が見込まれるから、国家公務員退職手当法五条同早見表により算定した同人の退職手当の額を基準として、ライプニッツ方式により逸失退職手当の額を算出すると、その額は金三二二万一八八八円とする。

(三四万二九〇〇×六〇×〇・一五六六=三二二万一八八八)

(三) 逸失退職共済年金 合計金二七二万八六七〇円

国家公務員等共済組合法及び国民年金法に基づき伸介が受給したはずの各年金の年額を算出すると、次のとおりである。

(1) 特別支給の退職共済年金 小計金一九一万〇四六二円

〈1〉 定額部分 金五四万五一六〇円

〈2〉 報酬比例部分 金八七万八二五二円

〈3〉 職域加算額 金一七万五六六〇円

〈4〉 加給年金額 金一八万六八〇〇円

〈5〉 加給年金額の特別加算額 金一二万四六〇〇円

(2) 老齢基礎年金 年額金六二万二八〇〇円

(3) 退職共済年金 小計金一〇五万三九〇二円

〈1〉 報酬比例部分 金八七万八二五二円

〈2〉 職域加算額 金一七万五六五〇円

右各年金の受給期間は、平均余命である七四歳までの一四年間、生活費控除は四割とみるのが相当である。よって、歴年給付額とライプニッツ方式により算出したその現価は、別表(三)のとおりであり、合計金二七二万八六七〇円となる。

(四) 治療費関係 合計金一四八万〇七九〇円

(1) 病院治療費(共済組合負担分) 金九九万一六九〇円

(2) 入院雑費(九日間) 金九〇〇〇円

(3) 入院付添費(五名、八日間) 金一四万八〇〇〇円

(4) 同交通費 金一〇万円

(5) 護送費 金二三万二一〇〇円

(五) 葬儀費用 金九〇万円

(六) 慰謝料 合計金一五一〇万円

(1) 傷害慰謝料 金一〇万円

(2) 死亡慰謝料 金一五〇〇万円

(七) 損害の填補 合計金一五〇万〇四九〇円

原告らが、以上の損害項目につき、国家公務員共済組合その他から、受けた損害の填補は、次のとおりである。

(1) 病院治療費 金九九万一六九〇円

(2) 入院付加金 金三〇〇〇円

(3) 埋葬料 金一〇万二〇〇〇円

(4) 死亡退職手当 金三〇万〇六〇〇円

(5) 弔慰金等(共済) 金一〇万三二〇〇円

(八) 弁護士費用 金六六四万九六九四円

以上差し引き総合計 金七三一四万六六三六円

6  よって、原告らは、それぞれ被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求として右損害の内金五〇〇〇万円の各二分の一に当たる各金二五〇〇万円及びこれらに対する本件不法行為の日である昭和五九年二月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

(被告ロープウエイの認否)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実は認める。

3 請求原因3(一)の事実は認める。

同(二)の事実のうち、中森ゲレンデの利用状況、構造、ゲレンデと駐車場との位置関係、ゲレンデから中森ゲレンデ下空地までの状況、右空地部分と紅花駐車場との間の崖状の雪の段差が存在していたこと、中森ゲレンデの裾部と紅花駐車場との間の一部分に竹竿とネットの防護柵が設置されていたことは認め、その余の事実は否認する。

伸介は、中森ゲレンデと紅花駐車場との位置関係及び東側段差の状況を知りながら、自分でコントロールできないスピードと滑走方法で、故意に東側段差の東南付近からジャンプし同駐車場中央方向に一四ないし一五メートルも飛び込んだものであり、かかる無謀行動によって本件事故を起こし、死亡したものである。被告らには、右のような異常行為による危険まで想定して防止の設備を設ける義務はない。従って、右義務を怠ったという工作物の設置保存上の瑕疵はなく、このような注意義務違反による過失もない。

被告ロープウエイは、紅花駐車場の東側に中森ゲレンデの上方から滑降してくるスキーヤーの安全確保のため、三ないし五メートルの立木を約一〇本植樹し、これらに高さ約一メートルのネットを張ってゲレンデと駐車場との境を明示していたのであるから、同被告には、工作物の設置保存上の瑕疵はなく、安全管理上の注意義務も尽くしたものである。

4 請求原因4(一)の事実は認める。

(被告後藤組の認否)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実のうち、東側段差の東南角付近が本件事故当時高低差約一・五ないし二メートルの崖であったことは否認し、その余は認める。伸介が中森ゲレンデから紅花駐車場へ進入した箇所の段差の状況は、本件事故当時、万一、スキーヤーが滑降して進入してくるようなことがあっても危険のないような雪の斜面であった。

3 請求原因3(一)の事実は認める。

同(二)の事実のうち、中森ゲレンデの利用状況、構造、ゲレンデと駐車場との位置関係、ゲレンデから中森ゲレンデ下空地までの状況、右空地部分と紅花駐車場との間の雪の段差が存在していたこと、中森ゲレンデの裾下部と紅花駐車場との間の一部分に竹竿とネットの防護柵が設置されていたことは認め、その余の事実は否認する。

4 請求原因4(一)の事実は認める。

同(二)の事実は否認する。中森ゲレンデ下部と紅花駐車場の東側段差付近は、滑降してくるスキーヤーにとって格別危険な状態ではない雪の斜面であったものであるから、被告後藤組には紅花駐車場の設置管理について瑕疵はなかった。仮に、東側段差付近が雪の崖の状態であったとしても、伸介が右崖の状態を知りながら自分でコントロールできないスピードと滑走方法で故意に紅花駐車場東南角付近上方のゲレンデから同駐車場内に飛び込んだものである。中森ゲレンデの裾部から紅花駐車場にスキーヤーが進入したり転落するのを防止するため、その境目付近に防護柵、回転灯による警告設備を設置する管理義務のあるのは、被告ロープウエイのみであり、被告後藤組には右の進入転落を防止する管理義務はない。

5 請求原因5の事実は否認する。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

請求原因2の事実は、原告と被告ロープウエイとの間ではすべて争いがなく、被告後藤組との間では、伸介が紅花駐車場へ進入転落した場所(以下「進入箇所」という)の東側段差の東南角付近の高低差及び段差の形状を除いて、争いがない。

中森ゲレンデは、別紙図面(一)、(二)のとおり、リフトに沿ってほぼ一直線に蔵王中央ロープウエイ山麓駅まで下るスキーコースで、主に下山路として利用され、同スキーコースの上方から見ると下方の右半分に紅花駐車場が存在するため、コースの裾の広がった緩斜面の幅員がその終わり近くで半分以下に大きく狭まっているうえ、左に屈曲し、かつ、その屈曲部付近からロープウエイ発着場東側前の中森ゲレンデ下空地まで中程度の急斜面に変化していること、同スキーコースの終わりの少し手前付近の裾には、北側に開けた平坦地があり、その一部がゲレンデになっており、その平坦地の下方部分が削り取られて紅花駐車場となっていること、冬季には、中森ゲレンデ下空地部分と紅花駐車場との間に雪の段差が存在し、中森ゲレンデの裾部と右駐車場との間の一部分に竹竿とネットの防護柵が設置されていたことは当事者間に争いがない。

二  本件事故に至るまでの経緯と事故の状況について

〈証拠〉によれば、次のような事実が認められる。

1  伸介、村山智、渡邉治、渡部正喜の四人(以下「伸介ら」という)は、いずれも昭和五六年に特許庁に採用された同僚であるが、蔵王でスキーをするため、昭和五九年二月二四日から同月二七日まで、紅花駐車場の西側道路向かいにある民宿「雪ぐら」に宿泊することになっていた。同月二四日の朝に同民宿に到着した伸介らは、同日は中森ゲレンデから中央ロープウエイを利用して蔵王スキー場を昇り、横倉や蔵王山頂辺りのゲレンデでスキーをした。翌二五日、伸介らは、中央ロープウエイを利用して蔵王スキー場を昇り、国体コースの脇の辺りでスキーをしていた。

2  伸介らは、二四日も二五日も、「雪ぐら」を出て中央ロープウエイ駅に行く際、紅花駐車場を通り抜けるのが近道と考え、スキーを担いで「雪ぐら」前の道路を渡り、紅花駐車場の出入口から同駐車場内を通り抜け、同駐車場南側の掻きあげた雪の土手にU字状にくぼんで事実上できていた幅約一メートルの抜道(以下「抜道」という。)を通って中森ゲレンデ下空地に出ていた。そして、同人らは、そこでスキーを履き、ロープウエイ駅舎を迂回して南側入口からロープウエイに乗った。また、伸介らは、右両日、「雪ぐら」に帰る際も、行きと同じ経路を逆に、抜道から紅花駐車場内を通り抜けて「雪ぐら」に戻った。二四日の帰路時には、村山と伸介が中森ゲレンデ下空地でスキーを脱ぎ、これを担いで抜道から紅花駐車場内に入ったのに対し、渡邉と渡部は、右雪の土手の南側間近までスキーで滑降してきて、向きを変えてスキーを履いたまま抜道を通って駐車場内に滑り込み、駐車場内においてスキーを脱いだ。二五日の帰路時には、伸介らは四名とも、前日に渡邉らがしたように抜道間近までスキーで滑降してきて、スキーを履いたまま抜道から駐車場内に入り、駐車場内でスキーを脱いだ。

3  伸介らがスキーをするときは、四人が順々にスタートするが、その後は特に隊形や順序などを決めずに自由に滑り、コース上に散り散りになったが、はぐれる者がないように各人が心掛け、四人の中の先頭を行った者が適当な地点で止まって、そこに皆が集まるようにし、そこから再び順々にスタートするという滑り方をしていた。

4  蔵王旅行の宿泊最終日の二月二六日、伸介らは、午前九時三〇分ころ「雪ぐら」を出発し、スキーを担ぎ紅花駐車場内を通過し抜道を通ってゲレンデに出て、中央ロープウエイに乗った。同人らは、午前一〇時三〇分ころ鳥兜山に着き、午前中には高鳥コースや上の台ゲレンデでスキーをして、午後一時三〇分ころ上の台ゲレンデの食堂で昼食をとり、その後国体コースやその周辺のゲレンデでスキーをした。午後四時ころになって吹雪が強くなってきたため、伸介らは、もう一回コースを滑降してから「雪ぐら」に帰ることにし、いったんリフトを使ってパラダイスゲレンデに上り、そこから太平コースを滑り降り、サンライズゲレンデに入り、サンライズゲレンデを滑り降りて、同ゲレンデと中森ゲレンデをつなぐ「かもしか橋」を渡り、同橋の通路と中森ゲレンデが合流する地点で止まって集合した。伸介らは、そこから更に中森ゲレンデを滑り降り、上方からみてゲレンデ左側の、水平距離にして蔵王中央ロープウエイ駅まであと二三〇メートル前後の地点(以下「最後の集合地点」という)で、また止まり集合した。

5  伸介らが最後の集合地点に集まったのは、午後四時四五分ころであったが、同地点からはまだ中森ゲレンデの全体を見渡すことができ、中央ロープウエイ駅舎の上部二カ所に点灯されたライトや、ゲレンデの裾で滑っている人が見え、紅花駐車場も見えた。そのときの天候は、曇りで大粒の雪が降っていたものの、山頂付近とは違って風はなかった。中央ロープウエイはこのころに運転されていなかった。伸介らは、そのころは、三日連続で終日スキーをして疲れていたことや、リフトも停まっていることもあり、急いで「雪ぐら」に戻ろうという気持ちになっていた。そして、最後の集合地点からまず村山が滑り出し、次に伸介が滑り出し、少し間を置いて渡邉、最後に渡部の順に滑り降りたが、滑り出してからは散り散りになって滑降した。伸介は、最後の集合地点からゲレンデを広く使ってパラレルターンをしながら滑降したが、その際には、毛糸の帽子は着用していたが、ゴーグルやサングラスは装着していなかった。

6  最後の集合地点から先頭になって滑り出した村山は、パラレルターンでスピードを押さえながら中森ゲレンデ下空地を目指して滑降し、抜道付近まで来るとスピードを更に落とし、ほとんどスキーを止めることなくそのまま抜道を通って紅花駐車場内に滑り込んだ。そして、村山が駐車場西側を向いて駐車場内でスキーを脱いでいた午後四時五〇分ころ、その背後に物が落ちる音がした。同人が後ろを振り返ると、伸介がスキーを履いたまま膝を立てた恰好で、頭を東側段差の方向にし、仰向けになって転倒していた。伸介の転倒しているところから同人の頭部の方向に(すなわち東側段差の方向に)、スキー板より若干長いシュプールが駐車場の除雪されて積雪の少なくなった平坦な雪面にはっきり残っていた。それから間もなく、中森ゲレンデを降りてきた渡邉と渡部が、スキーを履いたまま抜道を通って紅花駐車場内に滑って入り、転倒して後頭部から出血している伸介を見つけた。同駐車場内に居合わせて伸介の転倒の状況を目撃した氏名不詳の男は、渡邉らに対し、「そこから飛んできて落ちた。」と説明して、紅花駐車場の東南角のすぐ近くの東側段差の上を指示した。進入箇所である東側段差の上には、ゲレンデ上方から駐車場に向かう方向に長さ約五〇センチメートル、通常の開脚幅ないしそれより若干開脚気味のシュプールがはっきりと残っており、その付近には曲進や転倒をしようとした形跡がなく、そのシュプールも崖状の雪の段差のために途切れていた。そして、右の上下の両方のシュプールは約五ないし七メートルの間隔で離れているが、ほぼ直線的につながる位置関係にあった。右シュプールのある付近の雪の段差の形状は、本件事故当時、駐車場の雪面からほぼ垂直に高さ一・五ないし二メートル前後の雪の崖となっていた。

7  午後五時ころ、蔵王スキーパトロール委員会のパトロール隊員らが現場に駆けつけた。そして、村山らとパトロール隊員らは、伸介を毛布でくるんで、同人を東側段差の進入箇所より僅かに北寄りにある比較的緩い雪の斜面から運び上げて、いったん蔵王診療所に運んだ。伸介は、その後、山形市立済生館病院に移されて治療を受けたものの、前記転倒による脳挫傷が原因で、昭和五九年三月六日朝同病院において死亡するに至った。

8  本件進入箇所上のシュプールと駐車場の雪面上のシュプールとの距離、伸介の着地ないし転倒していた位置と進入箇所との距離、方位及び駐車場南側の雪の土手との距離、駐車していた自動車の位置などの諸点については、次の証拠の数値及び方位等に関する部分は、以下のとおりの疑問点があり、そのままたやすく採用できず、前記認定の限度でしか採用できない。

(一)  〈証拠〉のうちには、進入箇所上付近のゲレンデに除雪による盛雪があり、そこに上向きのシュプールがあったとか、伸介が約一五メートルジャンプしたという趣旨の部分は、起点も定かでなく、事故当時の実測等による記憶でないので正確性に疑念が残り、同趣旨の〈証拠〉も同様である。また、〈証拠〉も、その作成経緯、作成状況、作成日時、さらにはその正確性等に疑問がある。

(二)  〈証拠〉の距離や方向の記載の信頼性については、〈証拠〉によれば、本件事故が発生して、渡邉、村山らは事故現場において伸介を運び出したり、道具を運んだり、保険証を取りに行くなどして慌ただしく動き回っており、本件事故発生の直後、駐車場の東側及び南側の雪の段差の状況が変わる前に、同人らが、駐車場に転倒している伸介あるいはその頭上に残っているシュプールと本件進入箇所の上に残っているシュプールとの間の距離や、伸介と駐車場南側の雪の土手との間の距離を実際に測定することなどはしていなかったこと、右事故現認報告書、村山、渡邉及び渡部の三人が昭和五九年二月二七日に東京に帰ってから、損害保険会社に提出するため、蔵王の本件事故現場に戻らずに事故当時の記憶に基づいて、翌二八日に作成したものであることが認められる。しかも、〈証拠〉は、現実の地形ないし転倒の位置関係について、細部が省略されて単純な形に変容して作成された図面であることが、一見して明らかである。従って〈証拠〉は、事故当時の現場及びその周囲の状況について注意が十分に行き届いていない状態での正確とはいえない記憶に基づいて作成されているものと推認されるので、右の諸点に関する部分は、上下のシュプール間の距離の目安の点以外は、正確なものとしての信頼性が十分ではない。

(三)  〈証拠〉の信頼性について検討するに、〈証拠〉によると、右実況見分調書は、同警察署警部補菊池紀久が、昭和五九年三月三日に渡邉らの立ち会いの下に、前記(二)に述べたような事情で正確性に欠ける記憶しか留めていない虞れの強い同人や村山の指示説明を受けて、そのまま記載して作成したものであること、被告らの職員や蔵王スキーパトロール委員会のパトロール隊員等は右実況見分には立ち会っていなかったこと、しかも、同調書を作成する時の紅花駐車場の東側及び南側の雪の段差の状況がその後の降雪や除雪作業により本件事故当時の状況と大きく異なっていたことが認められる。そうすると、同証は、実際に現地を見分して作成されたとしても、東側段差、本件崖、南側段差等の位置及び形状が事故当時のそれと大きく違ってしまった以上、現場に望んで記憶を正確に再生し、客観的位置関係等を明らかにすることを期する実況見分の機能を実現したとは認めるに足りない。従って、〈証拠〉のうち右の諸点に関する部分は、その正確性に対する疑念を払拭し切れない。

(四)  当裁判所の事故現場の検証の結果も、本件事故から三年後に行われたものであり、付近の降雪、除雪及び積雪の状況も本件事故当時の状況と大きく変わっており、立ち会った関係者の右の諸点に関する指示説明は、係争中であることを度外視しても、食い違いが大きく、その正確性に疑念がある。

(五)  〈証拠〉は、積雪のない夏季の状態で、右の位置関係及び方位を説明せんとするものであり、その正確性はさらに期待できないものである。

三  本件事故の原因について

1  右に認定判断したところによれば、伸介が中森ゲレンデを滑降してきて東側段差の本件崖上から、概ね西側方向へ飛び出すような形で駐車場内に進入し、そこから数メートル離れた同駐車場内の平坦な雪面に着地して転倒したという限度で、事実を推認することができるものの、伸介が進入箇所から正確に何メートル飛んだのか(前記二8項に掲げた各証拠のうち、主として原告が援用する証拠によれば約五メートル、主として被告が援用する証拠によれば約一五メートルとされているので、伸介が少なくとも約五ないし七メートル前後を飛んだものと推認することは、証拠上も差し支えない)、そして、それが紅花駐車場の南側土手と平行に飛んだのか、それとも駐車中の自動車の間を目掛けて飛んだのか否かについては、結局、いずれも事実を確認するに足りる資料はないといわざるをえない。なお、伸介が自分でコントロールできないスピードと滑走方法で進入箇所に差し掛かり紅花駐車場に進入したことを認めさせる的確な証拠は何もない。

そして、本件事故を発生させた事態としては、次のような場合を想定することが可能である。

(一)  伸介が、進入箇所が一・五メートルないし二メートルの高低差がある雪の崖となっていることを知りながら、ジャンプするように駐車場に進入しても無事着地できると考えて、これを実行した事態。

(二)  伸介が、進入箇所が右のとおりの状況であることを知らず、もっと低い段差あるいは雪の斜面となっていてそのまま駐車場内に滑降していくことができると信じて、進入箇所から滑降態勢で進入した事態。

(三)  伸介が、中森ゲレンデの終わりの手前付近で、左方向に滑降し同ゲレンデ下空地へ向かおうとしていたが、何らかの事情で左方向に転回する機会を失して、崖状の雪の段差があることを知りつつも、進入箇所の方へ直進せざるを得なかった事態。

(四)  伸介が中森ゲレンデを裾まで滑降してくる途中で、疲労、降雪や明暗などの状況変化のため、いわゆるホワイトアウトや注意力散漫の状態となり、前方の駐車場をゲレンデの続きと錯覚し、進入箇所へ向かってそのまま滑降した事態。

2  前記認定事実によれば、伸介は、本件事故に至るまで既に三日間紅花駐車場のすぐ近くの「雪ぐら」に滞在し、同駐車場や抜道を通って中森ゲレンデとの往来を五回もしていることからして、駐車場内の状況、東側及び南側段差の状況、それらの毎日の変化等について十分に知っていたこと、本件事故の際も紅花駐車場内を経由して「雪ぐら」に戻る意図があったであろうこと、本件事故発生の時刻及び当時の気象条件に照らし、伸介が最後の集合地点から滑降してくる時点では同人の視界に紅花駐車場が入らざるをえない状況であったこと、従って、伸介が駐車場の存在を意識してこれを念頭に置きつつ、降雪や疲労から帰りを急ぐ気持ちもあって、紅花駐車場内に入る経路を考えていたであろうこと、伸介が紅花駐車場内に飛び込んだ東側段差上のシュプールや駐車場内のシュプールの形状やその間の距離が五メートル以上はあったことなどに照らし、伸介が自分の滑走する先が駐車場内であることを知りながら何らためらいを抱くことなく進入箇所から紅花駐車場内にそのまま滑降するように飛び入ったことを推認することができる。

しかし他方、検証の結果によると、紅花駐車場東側から東方向に約三五メートル上手の地点では、滑降してきたスキーヤーにとって、紅花駐車場の東側段差が崖になっているのか、緩い斜面になっているのかなどの状況がまだ分からない状態であること、その状態は右地点よりも更に若干駐車場東側段差に近づいた地点でも同じであることが認められる。そして、〈証拠〉によれば、紅花駐車場の東側段差付近の雪の状況は、除雪のたびに変化し、斜面になったり、切り立った崖状になったり、一部が崖状で一部が斜面になったりすることが認められる(前記二で認定したように、現に本件事故当時伸介の進入箇所のやや北寄りの東側段差部分は比較的緩い雪の斜面となっていた)。また、〈証拠〉によれば、伸介のスキーの技術レベルは、パラレルもウエーデルンもまだ型が完成しておらず、バッヂテストでは三級に届くか届かない程度であったこと、しかしながら、伸介のスキーの経験は少なくないことが認められ、右技術レベルや経験からすると、伸介は、一・五ないし二メートルの高さの雪の崖の上から平坦な雪面にジャンプすることが一般のスキーヤーにとって大変危険なことであることを重々承知していたはずであり、自分のスキー技術ではなおさら危険であることを自覚していたことが推認できる。

以上の諸般の事実を総合して判断すると、本件事故直前の伸介に生じていた事態は、前記1で想定した(一)や(四)の事態とは考え難く、同(二)か(三)の事態であったと推認されるが、その(二)または(三)のいずれの事態であるかは、本件証拠では断定できない。従って、本件事故の原因については、右(二)か(三)のいずれかの事態によるものであると選択的に認定せざるをえない。

四  中森ゲレンデ及び紅花駐車場の設営と管理の状況について

1  〈証拠〉によれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告後藤組は、従来笹藪や低い雑木の生い茂っていた山裾を約一三〇〇坪の範囲で造成して紅花駐車場を作り、昭和四三年以来そこで営業していた。被告ロープウエイは、昭和五三年一二月同駐車場に隣接してスキーゲレンデを造成し、中森ゲレンデ(当時は「ファミリーゲレンデ」の名称)を開業した。

(二)  右造成の結果、中森ゲレンデの裾の近くは、現地形上、概ね別紙図面(二)のようになり、次のような構造となった。

(1) かもしか橋の地点あたりから蔵王中央ロープウエイ駅までの距離が水平距離にして約四三〇メートルであり、スキーコースは、右地点付近で南西方向に(コース上手から見ると左側に)曲がり、それから約二〇〇メートルほぼ直線のコースが続き、そのあと西方向に(コース上手から見ると若干右側に)曲がり、それから蔵王中央ロープウエイ駅発着場前まで二三〇メートル前後ほぼ直線のコース(以下これを「最後の直線コース」という)となっている。

(2) 最後の直線コースは、蔵王中央ロープウエイ駅の手前約二〇〇メートルのあたりからコース幅が約五〇メートル、その勾配が約一三度となるが、蔵王中央ロープウエイ駅手前約四〇メートルのところに紅花駐車場がコースの右側(北側)を大きく食うような形で存在するので、そこからコース幅が急に約三分の一に狭まっている。そのコースが狭まったあたりの南側端にはリフト乗り場が設置されており、これもコース最終端部をわずかに狭める一因となっている。

(三)  被告ロープウエイが中森ゲレンデを開業すると、連日多くのスキーヤーが同ゲレンデを利用するようになったが、スキーが紅花駐車場内に流れてきて駐車中の乗用車を傷つけるなどの事故が起こり、スキーが駐車場内に流れて来ないようにする必要があった。しかも、スキーヤーの流れを紅花駐車場側から蔵王中央ロープウエイ山麓駅の方に変える必要もあった。そこで、被告後藤組の相談を受けた被告ロープウエイは、毎年スキーシーズン中、駐車場東側のゲレンデと隣接する部分にネットを張って防護措置を講ずるようになり、随時ネットの整備点検を行っていた。被告後藤組は、右ネットの設置設備については被告ロープウエイに一任していた。

(四)  また、被告ロープウエイは、昭和五三年に中森ゲレンデを造成して以来、ゲレンデを滑降してきたスキーヤーが紅花駐車場に向かうのを防ぎ、スキーヤーの流れを中央ロープウエイ駅の方に変えるため、紅花駐車場東側に隣接する被告ロープウエイの社有地上に盛り土をし、その盛り土の西側法面の根元が原地形上紅花駐車場の東側境界線と一致するように造成した。その結果、紅花駐車場東側の盛り土部分は、駐車場の地面との関係で、その北側部分において、高低差が約三・五メートル、角度が三〇ないし三五度、南北中間部分において、高低差約三・七五メートル、角度三〇ないし三五度の急斜面を形成するようになり、それより南側部分になるに従って高低差や傾斜角度も小さくなっている。駐車場の東南角付近には、盛り土がされなかった。被告ロープウエイは、駐車場東側の盛り土の上に楓その他の木を植樹するなどしてコースの裾部でスキーヤーの流れを南側(コース上手から見て左側)に変えるようにしたが、紅花駐車場の東南の角の付近には盛り土がなく駐車場とゲレンデとの段差がないため、紅花駐車場東側の境界線のうち南側の数メートル(すなわち、駐車場の東南角付近)には植樹をしなかった。

(五)  他方後藤組は、積雪がある度にブルドーザーを使用して紅花駐車場内の雪を、まず東側境界の方向に押し集めて除雪し、二、三日後にその集めた雪を今度は東側境界を越えての北側方向に押し揚げて除雪していたが、特に休日の前日と当日は駐車する自動車台数も多いので、除雪量も多くなっていた。このような除雪方法であるため、除雪のたびに紅花駐車場の東側段差の状況が変わり、駐車場の東南角に高さが一ないし二メートル程度の雪の崖ができることもあった。また、このようにして中森ゲレンデとの事実上の境となる駐車場の東側段差の位置は、除雪作業の仕方が原因して、スキーシーズン中に約二〇メートルの範囲内で東西に平行に移動していた。右のように東側境界を中森ゲレンデ側に越境させて除雪することについては、被告ロープウエイも了解していた。

(六)  被告後藤組は紅花駐車場の西側入り口に通り抜け禁止の看板を立てていたが、中森ゲレンデを滑降してきたスキーヤーの中には、本来通り抜けてはならないはずの紅花駐車場を通り抜けて行く者も多く、そのために駐車場南側土手に抜道ができていた。同駐車場を利用するスキーヤーが駐車場からゲレンデに入り易いようにするため、被告後藤組が右の土手を削って抜道を作ることもあった。また、除雪により紅花駐車場の東側段差にできる雪の斜面を子供が橇で滑って遊ぶこともあった。

(七)  昭和五九年は降雪が比較的多く、同年二月ころは、中森ゲレンデには二メートル前後の積雪があり、紅花駐車場の東側段差上方に植樹された木の頭部が一メートルないし数十センチメートル出ているのみで、そこからコース上手に向かって東西に約一〇メートルの範囲で平坦な雪面が広がっていた。被告中央ロープウエイは、昭和五九年二月一〇日、紅花駐車場の東側段差上のネットを含む中森ゲレンデの三か所の防護ネットの着け直しをし、同月二一日にはリフトの係員が防護ネットの点検及び整備をした。しかし、その後翌三月一日までネットの整備も点検もせず、二月二三日に一〇センチメートルの降雪、翌二四日に一五センチメートルの降雪があり、更に二六日にも本件事故の直前から降雪があったため、本件事故当時、駐車場東側境界付近に設置された防護ネットやポールは雪の中に大分埋もれ、ネットも弛んでいた。また、その防護ネットやポールは、紅花駐車場の東側段差の上方前面のすべてを覆うものではなく、駐車場の東側段差の東南角付近を中心とした幅数メートルの範囲の雪の崖等の前面には、ゲレンデ上方から滑降してくるスキーヤーが紅花駐車場に進入してくるのを妨げ、あるいは防護する設備や危険標識等は、何ら存在しなかった。

(八)  伸介は、ゲレンデ上方から滑降してきて、右のような紅花駐車場への進入を防ぐものが何もない部位から、被告後藤組の除雪作業によりできた崖状の雪の段差に進入して転倒するに至り、本件事故に遭遇した。

(九)  なお、被告ロープウエイは、本件事故後、紅花駐車場の東南角も含め東側段差にできる雪の崖及び斜面の前面全体を覆うように防護ネットを張り、右東南角上部付近に回転灯と黄色の徐行表示板も設置した。

五  被告ロープウエイの責任

1  中森ゲレンデの占有管理

スキーゲレンデは、主として自然の地形を利用するものではあるが、〈証拠〉によれば、中森ゲレンデは、従来杉が生い茂っていた山林を切り開いて造成し、中央ロープウエイと中森リフトを架設するなどしてスキーコースとなるように整備したものであること、スキーシーズン中は、スキー滑降に適した状態を維持するため、被告ロープウエイが圧雪車で随時ゲレンデ上の除雪や雪均し作業を行っていたことが認められる。そうすると、中森ゲレンデは、右のような人工的作業を加えることによって成り立っているものであり、土地の工作物というべきである。そして、請求原因3(一)(被告ロープウエイによる中森ゲレンデの占有管理)の事実は当事者間に争いがない。

2  設置または保存の瑕疵

工作物責任における瑕疵とは、工作物として社会通念上具備することを期待できる設備ないし安全性の欠如をいう。スキーゲレンデにおいては、ゲレンデを滑降するスキーヤーの生命身体を確保するために通常要求される措置を欠くことをいう。これを中森ゲレンデについてみると、被告ロープウエイは、最後の直線コースをその裾部付近で南側方向に曲げ紅花駐車場内にスキーヤーが進入しないようにするため、原地形上の紅花駐車場との東側境界付近に盛り土をし、その上に植樹をしている。しかしながら、本件現場付近のように二メートル以上の積雪もある地域では、右のような造成措置が、ゲレンデ上方から滑降してくるスキーヤーを安全にロープウエイ駅発着場前まで誘導するための措置として十分とは必ずしもいいきれず、現実の利用状況、積雪状態及び除雪状態を前提にしてその安全性を考えなければならない。

〈証拠〉によると、駐車場東側に設置された防護ネットの下部には、何人かのスキーヤーが同ネットに突き当たってできたと推測される穴が数箇所に空いていたこと、現に女性スキーヤーが止まり切れず尻をつきながらネットにスキーを突き刺していたことがあることが認められる。しかも、前記認定のとおり、ゲレンデ上手から滑降してきたスキーヤーには駐車場東側に大分近づいても、東側段差の崖や斜面の状況がわからないこと、そのうえ、中森ゲレンデを利用する多くのスキーヤーのうちかなり多数の者が、ゲレンデから紅花駐車場内に入ってこれを通り抜けることにつき、何ら躊躇を感じていない様子であった。これらの状況からすれば、上方から滑降してきたスキーヤーが紅花駐車場の東側境付近から同駐車場内に入ってくることを防止するためには、前記盛り土及び植樹のみならず、駐車場東側段差にできる雪の崖や斜面の前面全体をふさぐ防護ネット、あるいは目立つ危険標識やコース標識が必要だといわざるをえない。さらに、駐車場の東側及び南側段差の雪の崖が従前からの方式による除雪作業を続ける限り生じうること、中森ゲレンデの特にコース終着点にいたる部分までの構造、用法、隣接する紅花駐車場も含めた場所的環境、位置関係、駐車場東側のすぐ上手付近がスキーコースの裾部分にあたり、各種レベルのスキーヤーが頻繁に滑降してくる箇所であること、並びにスキー滑降したまま崖状の雪の段差を転落した場合の危険性、被告ロープウエイが中森ゲレンデを使用するスキーヤーを主な顧客として営業をしていることなどの諸事情を考慮すると、被告ロープウエイに右のような防護等設備の設置義務を課しても不合理ではなく、本件事故当時に紅花駐車場東側段差とゲレンデとの境の南端数メートルの部分(伸介の進入箇所を含む)に防護ネット等スキーヤーが駐車場内に進入してくるのを防止するものが何もなかったのは、スキーゲレンデのコース裾部分としては、スキーヤーの生命身体の安全を確保するために通常要求される措置を欠くものである。従って、被告ロープウエイには中森ゲレンデの設置保存につき瑕疵があるというべきである。

なお、本件事故の原因が前記三項1の(一)の事態によるものと認められないことは、同項2で述べたとおりであるから、伸介の行動をもって異常行為と見ることができない。従って、中森ゲレンデ設置保存についての右瑕疵と本件事故との間の因果関係を否定したり、本件事項を不可抗力に因るものとすることはできない。

よって、中森ゲレンデの設置保存上の瑕疵及びこれと本件事故との間の因果関係が認められ、同ゲレンデを占有管理する被告ロープウエイには、右瑕疵によって生じた損害を賠償すべき責任がある。

六  被告後藤組の責任

1  紅花駐車場の占有管理

請求原因4(一)(被告後藤組による紅花駐車場の占有管理)の事実は、当事者間に争いがない。前記四項の認定事実によれば、同被告は、被告ロープウエイの了解のもとに、随時駐車場内の除雪作業をして駐車場東側段差上に雪を押し揚げるなどして駐車場東側の雪の状況をいかようにも変え得る立場にあったもので、本件のように一・五ないし二メートルもの雪の崖を造ったものであり、滑降してくるスキーヤーにとってゲレンデのコース裾部分に危険な箇所を生じさせていたこと、本件事故以前から同駐車場内に多くのスキーヤーが無断で立ち入るため、西側入口に通り抜けを禁止する旨の看板を立てられていたが、それにもかかわらず現在にいたるまで駐車場内に立ち入るスキーヤーがあとを断たない状況であることが認められる。従って、被告後藤組は、ゲレンデ近くの東側段差の雪の崖など危険な箇所の存在していること、並びに多くのスキーヤーが駐車と無関係に紅花駐車場内に入っていたことを認識していたものと認めるべきである。

2  管理上の過失

右の管理状況及び前記四項に述べた諸点をも勘案すると、被告後藤組には、スキーコースの裾部分付近に危険を作出した者の責任として、除雪作業の結果できた駐車場東側段差部分の雪の崖など危険箇所にスキーヤーが進入してくることを防止するために、被告ロープウエイの了解を得て駐車場東側段差の上に防護ネットを自ら張るか、あるいは、被告ロープウエイに対し防護ネットを張るように要請すべき安全管理義務があったというべきである。そして、後者の場合には、除雪作業の仕方いかんによって駐車場の東側段差のどこが危険箇所となるか変わるため、結局、駐車場の東側段差の前面全体をふさぐ形で防護ネットを張らせることが必要になるというべきである。

しかるに、被告後藤組は、駐車場東側に防護ネットを自ら張ること、あるいは被告ロープウエイにはそれを要請することをせず、被告ロープウエイが東側段差の前面の一部にしか防護ネットを張っていないのに、そのままにさせて放置した。その結果、伸介の進入箇所付近には何らの進入防止の設備もなかったものであるから、被告後藤組には、右安全管理義務を怠った過失を認めざるを得ない。そして、前記認定のような伸介の事故態様は、過失相殺の事情とはなり得ても、右過失を阻却する事由とはなり得ず、また、紅花駐車場が中森ゲレンデの開業以前より営業していた事実が右過失の存在を左右する事由となり得ないことも明らかである。

よって、被告後藤組には、右過失によって生じた損害を賠償すべき責任がある。

七  そこで、損害の点について検討する。

1  伸介の逸失利益

〈証拠〉によると、伸介は、本件事故当時満二一歳(昭和三七年八月二九日生まれ)の高卒の独身男子であったこと、伸介が昭和五五年度国家公務員試験に合格して昭和五六年四月一日から特許庁に勤務し、本件事故当時の本俸が月額金一〇万〇二〇〇円であったことが認められる。ところで、一般に公務員の場合将来その勤続年数に応じて昇給がなされることは推測するには難くないから、その昇給分も加味して逸失利益を算定することも確実性が認められる限りあながち不当とはいえない。しかしながら、伸介のように就労して数年しか経ていない若年労働者の場合、将来の昇給や退職金、年金のための掛け金、年金等については、その具体的内容が現段階では国家公務員の給与等に関する各法規によっても将来に亙って必ずしも確定しているとはいい難く、また、国家公務員の給与、定年、退職金、年金等の制度の動向に予測のつかないところがあり、また、近時の若年労働者の職業事情に鑑みると、伸介がそのまま事故当時の勤務を長期継続する可能性も確実とはいい難いところがあるので、別表(一)ないし(三)(なお、原告の別表(三)では年金のための掛け金の負担について考慮されていないが、これは不当である。)のように、長い将来に亙り何段もの推測を重ねて給与、退職金及び年金の逸失利益等を算定することは、その蓋然性も薄くなり、合理性を欠くといわざるを得ない。

賃金センサス昭和五九年第一巻第一表(抜すい)によると、本件事故当時の伸介の年収は、本俸に各種手当を加算しても、同年代の有職者の平均年収より低額になり(本俸に期末、勤勉及び地域調整の各手当を加算しても、伸介の年収は金一八六万二七一八円にとどまる。)、そのうえ公務員の場合定年が満六〇歳であり、有職者の平均就労可能年数より短いことも明らかである。従って、伸介の逸失利益額は、むしろ前記表によって算出するのが合理的である。そうすると、本件事故に遭遇しなければ、伸介が平均余命の範囲内である満六七歳まで稼働可能であったものとして、昭和五九年賃金センサス第一表産業計、企業規模計、学歴新高卒、男子労働者年齢二一歳の年間平均給与額金二四二万四四〇〇円を基礎とし、控除すべき生活費を五割とし、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、逸失利益の現価を算出すると、金二一六七万四一三六円となり、右金額が伸介の本件事故による損害と認めるべきである。

(金二四二万四四〇〇円×(一-〇・五)×一七・八八=金二一六七万四一三六円)

2  原告らは、伸介の親であり、相続によりそれぞれ二分の一宛右逸失利益の損害賠償請求権を取得した。

3  治療費関係

(一)  治療費

〈証拠〉によれば、伸介の治療費金九九万一六九〇円について、原告らは何ら出捐せず、共済組合から済生館病院に保険診療として直接支払われていることが認められるから、原告らには、治療費支出による損害は認められない(このような場合に、いったん損害として計上した上、過失相殺後に損害の填補として控除するのは不適当である)。

(二)  入院雑費

入院雑費は、昭和五九年当時としては一日当たり金一〇〇〇円が相当であったと認めるのが相当である。伸介が死亡するまで九日間入院したことは先に認定したとおりであるから、金九〇〇〇円を本件事故の相当損害として認めるべきである。

(三)  入院付添費

先に認定した伸介の受傷の程度からして、昭和五九年当時一日当たり金四五〇〇円の入院付添費を本件事故による原告らの損害と認めるのが相当である。〈証拠〉によれば、原告らは、本件事故が発生した日の翌日(二月二七日)から伸介が死亡するまで八日間付き添っていたことが認められるから、原告二人分で金七万二〇〇〇円を本件不法行為の相当損害として認めるべきである。

(四)  護送費

原告らが治療費として護送費の支出をしたことを認めるに足る証拠はない。伸介の遺体の護送費用とすると、後記4の葬式費用の内の訴外山形葬儀社に対する支出と金額も同じであり、これと重複するものと推測される。

(五)  交通費

〈証拠〉によれば、原告らは、新潟県松之山町の実家から近所の知人に頼んで伸介が入院する済生館病院に行ったことが認められる。しかしながら、原告らが伸介の看護に出向くために出捐した交通費の金額は明らかではなく、他にこれを認めるに足る証拠はない。原告らの交通費支出による損害は、認めることができない。

4  葬式費用、埋葬料

〈証拠〉によれば、原告らは、伸介の葬式のために山形葬儀社に対し金二三万二一〇〇円、読経料として訴外松陰寺に金五〇〇〇円、火葬取扱のために訴外佐藤昭作に金五〇〇〇円、斎席場使用料として訴外白川屋旅館に金七四万六四四〇円、葬儀用の伸介の写真代として訴外みしま写真館に金一万二〇〇〇円、居士料及び布施として訴外観音寺に金九万五〇〇〇円、香典礼状の印刷代として金八五〇〇円、蝋燭線香代として金六〇〇五円、餠代として金一六五〇円、赤飯、料理、食料品の代金として金一二万一六七五円、生花代として金一八六〇円、引出物の代金として金七五万六八二〇円、埋葬料として訴外松之山町役場に金一万五〇〇〇円をそれぞれ支出したことが認められる。原告らは右支出分の内金九〇万円を葬式費用等の損害として請求しているが、右金九〇万円程度の費用は、成人の葬儀を行うにつき社会通念上相当な経費と認められるから、原告らには、葬式費用金九〇万円を本件事故による相当損害として認めるべきである。

5  慰謝料

先に認定した本件事故の原因や被告らの責任事由等諸般の事情を考慮すると、伸介の死亡により原告らが被った精神的損害に対する慰謝料は、原告ら各人につき各金七五〇万円が相当であると認められる。

6  よって、右1ないし5によれば、原告ら各人には、各金一八八二万七五六八円の損害が認められる。

八  過失相殺

一般に、スポーツは、常にある程度の危険を内在しているものであり、いわゆるゲレンデスキーにあっても、スキー滑降の技術、スピード、気象条件等の特質、並びにスキーゲレンデがある程度人工的設備を施されているとはいえ、もともと山の斜面の自然的な地形を利用するものであることなどからして、その性質上相当程度の危険を伴うスポーツであることは明らかである。

そして、スキーヤーは、かかる危険を承知の上、自己の技量を認識してゲレンデを滑降するのが通常であるから、スキー滑降に伴う具体的危険状況については、当該スキーヤー自身が、第一次的に予見し、その危険の回避を自己の責任においてなし、その安全管理をするのが原則である。それゆえに、スキーヤーには自己の技量に応じた無理のない滑走をするように努める安全注意義務が課せられていることは勿論、滑走中は自己が進行しようとする先の状況に注意を払い、なるべくなら滑走経路を予定した本来のスキーコースから外れないように維持し、進行先の状態が滑走に適しない箇所であるようならば、そちらの方へは向かわないようにして常に滑降に適した雪上を滑降するよう努めるべき安全注意義務がある。

ところが本件の場合、伸介の行動は、被告らの守備範囲を逸脱した異常行動とまでは評価できないまでも、進行先が紅花駐車場でありスキー滑走を全く予定していない箇所であることを承知の上で、帰路を急ぐ余りわずか数十メートル左側下方の中森ゲレンデ下空地まで降りることを省略し、直接駐車場内にスキー滑走して、本件事故を起こしたものである。しかも、駐車場の西側入口には通り抜けを禁止する旨の看板が立てられており、スキー客が駐車場内に入らないように一応注意を喚起していたことは先に認定したとおりである。また、〈証拠〉によれば、本件事故の前の二月二四日から二六日の三日間を通じて駐車場の地面にはブルドーザーの跡のでこぼこ、一部には硬い氷雪部分や固めた土の露出部分もあり、本来スキーを履いたまま出入りするのに適する状態ではなかったことが認められる。従って、伸介にも相当大きな過失があったことを認めざるを得ない。本件事故が四項1に述べた(二)または(三)の事態によるものであると選択的にしか推認できないが、このような場合、過失相殺にあたっては、本件事故が伸介にとってより不利な右(二)の事態によるものであるという前提に立って、伸介の過失の度合を考慮すべきものと解するのが相当である。そして、本件事故の発生に至るまでの諸事情を考慮するならば、伸介の過失割合は八割と認めるのが相当である。

そうすると、前記損害額は、過失相殺の結果、原告ら各人につき各金三七六万五五一三円となる(ただし、一円未満は切り捨て計算)。

九  損害の填補

〈証拠〉によれば、原告らは、伸介の加入していた共済組合から、入院付加金として金三〇〇〇円、埋葬料として金一〇万二〇〇〇円を受け取ったことが認められる。

従って、原告らの残損害額は、各金三七一万三〇一三円となる。

一〇  弁護士費用

本件事案の内容、訴訟の経過、損害認容額、その他諸般の事情に照らすと、弁護士費用として合計金八〇万円(原告ら各人につき各金四〇万円)を本件不法行為による相当損害と認めるのが相当である。

一一  結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、不真正連帯債務として、各金四一一万三〇一三円及びこれに対する本件不法行為の発生した日である昭和五九年二月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九三条一項但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 菅野博之 裁判官 櫻庭信之は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 鬼頭季郎)

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